世界をリードしたシリコンバレーのIT産業は、2000年代に入り急速に衰退している。ITバブル前の1990年と2006年を比較すると、コンピュータ・電機産業で働く労働者は14万人余から7万人余へ半減している。シリコンバレーの凋落の他方では、中国、台湾、インドなどアジアのIT産業新興地域がめざましい発展を遂げている。 本年度は、カリフォルニア大学バークレー校にて、シリコンバレーのIT産業の現状を分析するために統計資料の調査等を行うとともに、アジアのIT産業新興地域を分析するために台湾のサイエンスパークの調査を行った。 台湾政府は1980年代からコンピュータ産業の育成を図り、台北近郊の新竹市に科学技術園区を建設し、政府主導で多数のIT企業を誘致した。その結果、新竹園区の生産額は現在では台湾の製造業全体の10分の1前後を占めるまで発展した。この発展を推進する知的資源を供給したのは、隣接する台湾の第一級の大学、清華大学、交通大学等である。またUSA留学で先端技術を修得し、帰国後起業した「頭脳還流」者の役割も重要である。調査を行った企業の一つ合勤科技股〓有限公司ZyXELの経営者は、USAの大学院でPhDを取得、ベル研究所に務めた後帰国し、新竹近郊のアパートの自室で1989年にモデムの生産を始めた。その事業は現在では、ICチップからインターネット・デヴァイスまで幅広いIT製品を製造し、世界各地に拠点をもち販売する、従業員3千人を超えるグローバル企業に成長している。 台湾政府はさらに1997年台南に、2003年台中に大規模な科学技術園区を建設し、IT産業、バイオなど先端産業の企業を積極的に誘致している。今回は、台南科学技術園区の調査を行った。この園区は産業地区のみならず、住宅、ショッピングセンターから小中高の学校まで整備された生活地区をもち、台南市郊外に新たな都市が建設された感がある。
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