文献に基づく「組織体逸脱」の主要な理論の検討と、事例研究として日本の食品企業の逸脱の実態分析をおこなった。これら両方から明らかになったことは以下の点である。 1. 企業組織や専門職の者が職務上犯す「組織体逸脱」と、暴力団やシンジケートがかかわる「組織犯罪」は異なるものとして別々に研究されることが多い。しかし、両者の共通性(貧欲な利益追求・用いられる適応戦略等)や、両者が密かに相互依存している関係性にも注目する必要がある。 2. 「組織体逸脱」の遂行は特定の社会的世界を構成することによって可能となる。社会的世界の主要な構成要素は「逸脱ビジネスによる利得」「需要」「社会的損失」「社会的非難・規制」「参入への誘因」であり、これらは相互連関しているシステムとして捉えることができる。 3. 1977年から2006年までの日本の食品企業の逸脱の動向について、新聞報道や各種統計に基づいて分析をおこなった。1990年代半ばや2003年は、とくに食品被害や危険情報は増加しているが、BSEや輸入食品の汚染、食品偽装などの事件で食品安全への社会的関心が高まり、社会的規制も強化されたためであるが、食品企業が関与する逸脱自体は一貫して存在している。発覚した逸脱数の増減はあるにせよ、長期的にみれば食品企業・業界で逸脱が反復されている。 4. この事実を説明するものとして、目下のところ仮説的であるが、先にあげた組織体逸脱の構成要素のうちで、食品企業・業界の場合は「参入への誘因」と「需要」が大きなウエートを占めていると考えられる。とりわけ、企業・業界への政府・行政の保護政策が「参入への誘因」となっている。
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