本研究の目的は、地域住民の文化的背景の多様性を活用することにより、コミュニティの創造にいかなる影響が生まれるかを検証することにある。今年度は多様な文化的背景をもつ人々が関わる神戸市の市民グループ活動に着目し、関連資料収集と実態調査を行った。具体的内容と知見は以下の通り。 1、識字教室の取り組みについて 1995年の阪神・淡路大震災後、神戸市の各地に誕生した識字教室において、参与観察および聴き取り調査を実施した。これらの教室では、在日コリアンの高齢者や中国帰国者子女などのほか、障がいや家庭の貧困を理由に学校教育を十分に受けられなかった人々が文字の読み書きを勉強している。識字活動を通して、学習者らは文字を獲得し、情報社会ヘアクセスできるようになったほか、自分の人生を肯定し、より前向きに生きようとする気力を育んでいた。また、異なる文化的社会的背景をもつ学習者や支援者がともに学ぶ過程で、さまざまな「社会的弱者」の存在に気づく様子が見て取れた。 2、日本語学習支援のシステムづくりについて 兵庫県内で、NPO団体、外国人研修生・技能実習生を事業主に紹介する団体、および行政が連携を図り、外国人のための日本語学習支援システムを構築しようとする動きに注目し、関係者らに対する聴き取り調査を行った。また、すでに先駆的な取り組みが始動している東海地方の日系ブラジル人集住都市においても、外郭団体職員らへの聴き取りや学習支援の現場視察を実施した。その結果、日本で暮らす外国人を地域社会の重要な担い手として位置づけ、彼らの日本語学習を積極的に支援していくことにより、地域社会全体の利益が生み出される可能性のあることが示唆された。
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