研究概要 |
子ども虐待のない地域づくりを築いていくには,個人の側から「相談の社会化」を進めるととともにニーズキャッチ不全を惹起しない福祉コミュニテイづくりが大きな役割を果たす。 このことから平成20年度は,(1)虐待当事者(N=52),(2)地域住民,高校,大学生,里親会会員,行政職員(N=665),(3)要保護児童対策地域協議会構成員(N=329)を対象に、相談行動の心理社会的機制及び要保護児童対策地域協議会を中心とした福祉コミュニテイの形成に関する調査を実施した。このうち,(1)虐待当事者についてはevidenced based practiceの立場から,虐待を犯罪として立証するために検討が施されている裁判例をもとに,子ども虐待の生起メカニズムと相談行動の促進・阻害要因について事例分析を行った。(2),(3)については,それぞれミクロ、メゾ・エクソレベルにおける相談行動とsocial capitalについてアンケート調査を実施した。 この結果,子ども虐待が惹起される家庭では,被虐待児,虐待加害者ともに発達上の課題や経済問題など多様な要支援要素を内包していたが、「私が困ったときに周りは助けてくれなかった。公私にわたるこれまでの相談は役にたたなかった」負の体験からパワレスな状態に陥るとともに社会とのインターフェース機能に失調をきたし,相談援助サービスへのアクセス不全を招いていることが明らかになった。一方,地域における相談援助体制は充実してきていると関係者は認識しているが,「子ども虐待防止について知っていること」が「実際に相談通告する」行動にはつながらないことがうかがわれ,子ども虐待のない福祉社会を構築していくためには、目減りしてきていると考えられる地域社会におけるsocial capitalを蓄積していく福祉コミュニティの取り組みが今後肝要であると考えられた。
|