本研究は、自立し、自己決定出来ないクライエントを対象とする、ソーシャルワーク実践の主体性について、実証的に研究したものである。既存の論理に批判的に検討を加え、「自立できない」個人の尊厳を見出そうとする新しいソーシャルワークの実践のあり方を「実践の科学化」という機能的な方法論を持って明らかにしようとしたものである。 回復期リハビリテーション病棟におけるソーシャルワーク実践を対象とした質的調査研究の結果、患者やクライエントの「自己決定」に依拠できない状況の下において、ソーシャルワーカーが自身の援助の判断の根拠としているのは、自己決定できず、物言えぬ「クライエント」と、彼らを取り巻く家族に代表される「他者」との間にある、「関係性構築」の原理であることが析出された。ソーシャルワーカーは、クライエントが決定できず、判断を表現できない、その意味において近代市民社会における「主体」の位置を喪失したものであったとしても、彼らの存在を「承認し、肯定する」ような、「他者」との関係を媒介してゆく。その上で、彼らの存在の「意味」を軸心にした、クライエントと他者とが「向き合い受け入れる」ような関係性の構築に向けて、自らが関係性の「媒介者」として機能するような、「関係性構築の原理」に基づいた援助を実践してゆくのである。 このような実践は、既存の社会構造において「主体」としての位置を剥奪されたものにも「尊厳」を保障しようとする、「新たな社会関係を開拓する社会的実践」として、ソーシャルワークが招請される新しい可能性を示しているものと考えられる。しかし、こうした「主体の位置を剥奪されたもの」になぜ「尊厳」を担保しうるのか、その論理的根拠=価値基盤を論究する知的営為が、今後の研究課題として示された。
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