理論的研究については、実践的研究の成果を踏まえ、生成的なネットワーク変容論の洗練化を試みた。サポート・ネットワークを、トランズアクショナルな複数のシステムが結びついたシステムとして定義し、さらに、レベルの発想を取り入れ、それを、マクロレベルからミクロレベルに区分した。そして、サポート・ネットワークのシステム的視座とレベルの発想より、クライアントの困難の訴えを、サポート・ネットワーク全体における機能不全増幅の力動性の一面として分析する基礎的臨床理論枠を呈示した。この理論枠から新たなネットワーク変容の支援モデルを導出した。すなわち、それは、問題の改善のためには、ネットワーク・システムを構成する1つのサブシステムのトランズアクションの変容を試み、その変化を他のサブシステムの変容へと連動させ、ネットワーク・システム全体の変容を試みる、ミニマリスト・ネットワーク変容モデルである。 実践的研究については、本研究への協力の承諾を得た、慢性疼痛を訴え、サポート・ネットワーク・システムにおける機能不全が特徴的な通院中の患者を対象に、上記の理論的に整備された生成的なネットワーク論に基づく、ネットワーク療法を試みた。そこではクライアント自身がトランズアクション・システムの主体的生成者となり、トランズアクションを変容、生成させる過程の問題解決力が明らかにされ、そこで用いられた支援技術の効果について考察が試みられた。 これらの生成的なネットワーク療法の理論的及び、実践的成果の一部は、『サポート・ネットワークの臨床論』(世界思想社、2010年)として発表された。 効果測定法については、支援過程の逐語データをカテゴリー化し、量的変化の測定プログラムと、力動性の変容の測定結果を三次元グラフで表示するプログラムソフトを作成した。このソフトは、日本語版と英語版と作成し、国内および国際学会での発表に活用された。
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