Michelle Bourgeois氏および綿森淑子氏と協議を行い、日本語の文字体系に適した認知症向けの「読み能力評価法・試案を作成した。認知症者の場合、検査の枠組みを理解することが困難なため、既存の検査では読み能力を正しく評価することが難しい。検査課題への反応が良くないにも関わらず、目の前の文字を読み、理解していることが行動からは明らかな場合も少なくない。そこで検査的な枠組みではなく、会話の中で、あるいはゲーム的な雰囲気の中で、認知症者の実用的な読みの能力を評価する方法を考案した。この試案では、単語レベル、および短文レベルの読みの理解力を日常的なやりとりの中で評価することを目的とし、短文課題としては、短文のみの刺激と、短文とそれに関連する写真・絵を添えた素材を作成し、対象者に音読してもらった後、その内容についてコメントを求めた。単語課題としては、いろいろな趣味活動の名称をカード化し、対象者に、各カードについて、好き/嫌いや経験の有無をたずねた。認知症のある人に協力を得て、パイロットスタディを行った。対象は6名の女性でHDS-Rの得点は4点から7点であった。この結果から、単語レベルおよび短文レベルでの内容の理解の可否、漢字への振り仮名の必要性の有無、さらにその人に適した文字サイズを、ほぼ判断でき、個々の認知症者に適した文字刺激を明らかにできるという感触を得た。また、本試案を用いた場合の対象者からのより良い反応の引き出し方についても示唆を得た。
|