研究概要 |
前年度の結果をもとに,刺激として使用する短文・単語を選定し,認知症者「読み」能力評価法・試案2を作成した。評価用紙,およびマニュアルの作成も行った。7名のさまざまな重症度の認知症者に対し試用した結果,「理解」を確認するための促しの方法に工夫が必要であり,言語表出の少ない重度の対象者では,反応の速さや表情の変化が理解の読み取りのキーになること,などがわかった。しかし反応は,ほぼ「理解」または「理解不可能」のいずれかの判断ができるという感触を得た。また,文全体の理解ではなく含まれる一部の単語の理解,あるいは,同程度の頻度の単語であっても,理解できるか否かには,個人の好みなどが反映されることも示唆された。この結果から,本評価を用いるには,認知症者のコミュニケーション能力や特徴について,ある程度の知識と経験が必要であることがわかった。そこで,認知症について経験の豊かな言語聴覚士4名を研究協力者とし,認知症者のコミュニケーションの特徴について共通認識を確認したうえで,データ収集を依頼した。マニュアルに沿ってデータを収集してもらい,標準化研究に役立てるほか,経験的な部分,マニュアル化しにくい部分も含め,深くコメントをいただき,一般向けのマニュアルの作成に役立てたい。このマニュアルを用いて評価を行うことで,評価する者が,認知症のコミュニケーションについて,認識を深めることにも役立つようなものとしたい。 また,「認知症に対する電子機器を用いた介入の有効性の検証」として,本評価法・試案1を用いて2名の認知症者の読み能力の評価を行い,視覚的な刺激を用いた記憶への介入研究を行った。刺激として,音声・文字・画像を用い,介入の効果がみとめられた。介入時の観察から,対象者によっては,提示された文への集中の度合いが結果に影響を及ぼすことが推測され,この研究からも文字刺激の有効性は支持された。
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