近年、東アジア地域の社会保障・社会政策論に関する注目度が高い。しかし、先行文献のなかで中国の社会保障制度に関する財源論的なものがほとんどなく、日中両国の社会保障制度に関する財源調達上の共通性と相違性を分析するものも極めて?ない。このような背景のなかで、本研究は財政学の視点から日本と中国の社会保障改革における財源調達方法の変化に焦点を当たって、それぞれの変化にある経済的・社会的な背景を分析し、その上で、社会保障の財源調達方法の変化をめぐる日中の共通性と異質性を見出し、それぞれに対して新しい評価を導出したいことを目的とした。本研究では、(1)社会福祉の新しい財源調達方法として、市川市で実施されている「1%支援制度」を取り上げ、その制度概要や経済的効果について論じた;(2)社会保険の必要性と日本の社会保険制度の概要を考察した;(3)日本と中国のそれぞれの高度経済成長期間における財政機能の変化および社会保障財政のあり方について、両国の共通性と異質性を分析した;(4) 急速な高齢化が進展しているなかで、高齢者福祉サービスの提供における政府と民間の役割を検討した;(5)現代中国の公的医療保障制度の全体像を解明し、各制度間の格差問題および政府財政責任の欠如という問題を明らかにした;(6)1990年代末に創設された現行中国の社会保険制度の仕組みを考察するとともに、新旧制度間の違いを明らかにした上で、脱商品化の視点、または人的資源管理の視点から新制度の統合性が必要であると指摘した、などの成果を得た。なお、上記成果の詳細と現地調査による主な成果は後の部分で報告する。
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