本研究の目的は、日本の学校ソーシャルワーク実践の源流について明らかにするとともに、歴史研究から得られた過去の実践がもつ今日的意味について検討すること、及び過去の史実をふまえスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)の配置・育成に向けた課題を明らかにすることである。研究の結果、以下の点が明らかとなった。 京都市教育委員会「生徒福祉課」の実践は、教育委員会が欧米で発展した「ソーシャルワーク」を日本の教育現場で組織的に実践した最初の試みであり、教育行政施策として「生徒福祉課」の創設と改編・消失の過程をたどることで、事業実施上の教育行財政上の課題などが明らかとなった。さらに、こうした学校福祉実践は、京都市以外にも同時代に、高知県を始めとして、他の自治体において「福祉教員」、「福祉教諭」、「訪問教師」等の名称で、長欠・不就学児童・生徒対策として行われており、中でも、「福祉教諭」の組織化と全国配置を進めようとした「長欠児童生徒援護会」の実践は、過去に日本においてSSWの配置を国策として進めようとした重要な史実である。 また、現在、実施されている学校ソーシャルワーク関連事業は、西高東低で四国を含め関西以北の実践が質的にも量的にも進んでおり、東海以北でSSWの活用が停滞している傾向が見られた。こうした実施状況の違いには、様々な要因が関与しており、中でも教育委員会に関わる要因が大きいことが明らかとなった。具体的には、事業関連予算の確保やSSWの配置、支援体制の構築に教育委員会内の様々なアクターが関与しており、これらアクターの牽引力の差により実施状況に違いが見られることが示唆された。中でもSSWの支援体制の構築に関わる要因の中には、SSWが専門性を発揮するために実践基盤として必要な「職場環境の整備」や「スーパービジョン体制の整備」に関わる課題、SSWの専門性を担保するための「研修システムの構築」、「労働条件の整備」に関わる課題が含まれており、こうした課題への教育委員会の主体的な関与が本事業の正否に大きく影響を及ぼしている可能性がある。
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