研究概要 |
研究対象を精神科病院のソーシャルワーカー(PSW)が病院組織から「違和感のある仕事」を要請された場面に限定し、その状況に対してPSWは如何なる解釈や周囲への働きかけを経てソーシャルワーク業務に再構成していくのか-これをPSWの「役割形成」と規定し、そのプロセスを明らかにした。 研究方法は修正版グラウンデッドセオリーアプローチ(M-GTA)を採用した。以下に方法と結果及び結果の意義と重要性を述べる。 M-GTAは「分析テーマ」と「分析焦点者」の2点からデータの分析を行う。本研究の分析テーマは「精神科病院のPSWが組織から要請される違和感のある仕事をソーシャルワーカーとして『役割形成』していくプロセス」、分析焦点者は「精神科病院に勤務するソーシャルワーク経験10年以上のPSW」である。分析焦点者に該当するPSW12名に対して半構造化面接によるデータの収集を行い、分析ワークシートを使用した概念生成及び概念間の関連からなるカテゴリーを生成した。結果として34の概念、5つのカテゴリー、6つのサブカテゴリーから成るプロセスが描き出され、PSWの「役割形成」プロセスとは、利用者と組織〔双方の利益を結びつける〕営みであり、それを促進するPSWの実践基盤は【アイデンティティの止揚によるミッションの具体化】であることが示された。〔〕:概念,【】:カテゴリー 研究結果の意義は、(1)これまでのソーシャルワーク研究では周辺化されてきた「違和感のある仕事」の要請場面における対応プロセスや組織活動の実際という現実的な課題の解決・改善に向けて活用される理論の生成を行ったこと,(2)利用者と組織の利益を結びつけるという「生活モデル」の認識論を具体化させる実践モデルを示したこと,(3)ソーシャルワークの価値・目的を具体化するためにアイデンティティの止揚という態度形成が必要であったことを示し、新たなアイデンティティのあり様を提示した点,である。 *研究結果は大正大学大学院博士課程学位申請論文として提出し審査に合格した。
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