精神保健福祉領域のソーシャルワーク実践について、基準を提示することを目的とした研究である。2つの質的調査と3回の量的調査を実施するMixed-Methodの手法を採用した。第一に、精神障害者を調査協力者としてフォーカスグループインタビューを実施し、望まれるソーシャルワーカー像を抽出した。第二に、ベテランソーシャルワーカー13名を調査協力者とするインタビュー調査を実施し、精神保健福祉領域のソーシャルワーク実践の全体像を描写した。これら2つの調査から、実践を支える要素として、本領域のソーシャルワーカー(以下PSW)が自身の役割や位置づけをどのように規定するのかという「自己規定」、PSWが対象者であるクライエントをいかに捉えるかという「対象者観」、そしてPSWとクライエントとの「関係性」を抽出した。 そこで、量的調査ではこれら3概念と、PSWの実践行為を測定する指標を作成した。さらに、「自己規定」と「対象者観」が「関係性」に影響すること、「関係性」が「実践」にかなりの影響を与えること、逆に「実践」が「関係性」に影響することを検証した。また、PSWの経験年数や教育年数、研修受講回数といった属性によって、これらの概念に大きな差が出ることが明らかになった。 以上の結果から、本研究の意義は、(1)歴史的に主張されてきた、ソーシャルワークにおける「関係性」の重要性を、量的に検証したこと、(2)「関係性」を可視化する道具を開発したこと、(3)「自己規定」と「対象者観」を測定する指標を開発したこと、またこれらPSW自身の認識の重要性を明確にしたこと、(4)PSWの教育、訓練のために、属性によって異なる強化すべきポイントを明らかにしたこと、(5)研究手法として、量的調査ではカテゴリカル因子分析、項目反応理論といった新しい分析方法を用いている点である。
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