本研究課題においては、胎児性水俣病患者の存在と被害のありようを前提としつつも、なお未解明な点、とくに社会福祉的課題を明らかにし、50歳前後になる胎児性水俣病患者が、加齢に伴い障害が重度化するとともに家族からの介助・援助も困難となる中で、公害被害者、重度障害者としての二面を持ちつつ生きる困難と課題を明確にしていくこを目的とした。胎児性水俣病患者の場合、公害被害者としての補償体系と制度の中で、法的には被害-加害の民事的な関係の中に置かれることから、社会福祉的な施策の対象とはなかなかなりにくくソーシャルワーカーの関わりもきわめて希薄であった。そもそも、何が福祉的な援助の課題であるかさえ問われていなかったといえる。平成20年度は、水俣学現地研究センターを研究拠点に水俣在住の患者・患者家族、未認定患者、その中でも「光の当らない」在宅胎児性患者へのコンタクトをはかり、平成21~22年度にかけてヒアリング、訪問調査を継続した。これまで家族とごく一部の支援者しか知り得ることが出来なかった在宅の胎児性水俣病患者とその家族へのヒアリング、訪問調査し実態を記述できたことは、社会福祉的な援助の課題を明らかにする上で意味は大きかった。 胎児性水俣病・障害者とも制度の中で規定されていることによって被害が矮小化されており、被害補償や福祉的ケアの諸制度ではカバーしえず、家族内の負荷が増え、在宅生活が破綻しかかっていることが明らかになったとともに、生活の障害の複雑さの解明が更に必要であることがわかり、今後は、更にこのような調査を継続し深めることが必要である。
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