小規模多機能ケア理念の歴史的発展研究、沖縄県内の「小規模多機能型居宅介護」の事業所調査、および各地域でのフィールド調査の結果、いくつかの知見および政策インプリケーションが得られた。 1 小規模多機能ケア理念の背景と系譜 地域密着型のサービスには、(1)利用者主体の理念(尊厳の保持)、(2)利用者の生活の連続性の維持、(3)自由で柔軟なケア、(4)公共私の多様な社会資源の配置・活用という、これまでの施設/在宅の二分法を乗り越えようとする理念が認められること。 その理念の歴史的背景として、「ノーマライゼーションの思想」と世界的な人口の高齢化の中で、地域居住をすすめる理念としての「エイジング・イン・プレイス」が大きな影響を与えていること、そこには、ケアの理念としての「インプレイス」があり、単に居住の場を確保することではなく、落ち着き場所を創造することが問われていることを明らかにしている。 2 沖縄の小規模多機能ケアの特徴と課題 全国一給付費が高い沖縄という地域における特徴として、「その人らしい暮らしの維持」を願い、比較的重度の利用者のケアを行っている。その中で、利用者の主体性を重視し、尊厳ある暮らしの維持のため、「利用者の思いに共感し思いを受けとめられる」よう、生活の落差(切れ目)のないケアに取り組んでいる。食事、外出支援、家族との関係づくり、利用者と地域社会の関係づくりに焦点をあて、小規模ケア実践を分析することにより、小規模ケアが文化として発展しうる萌芽を見出すことができた。 事業所が位置する地域社会の「落ち着き場所」としての伝統文化を共有し発展させる取り組みとの協働によりさらに文化としての小規模ケアの深化や充実が可能になることも重要な知見となった。 課題としては、(1)制度的条件の脆弱さ、(2)財政的な理由からの多床室中心の施設ケア肯定論の復活、(3)働き手の介護労働における問題(感情労働側面)などが今後の研究課題として見出された。
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