本研究は、自治体が制約的制度下において、地域に応じたきめこまやかな政策執行がいかに可能かというきわめて福祉的な課題に資することを目的としている。平成22年度は、平成21年度に実施した、都市及び地方の居宅介護支援専門員及び介護保険事業関係者31名に対して実施した半構造化面接調査で得た談話データを用いて以下の分析を行った。調査時点において同居家族がいる場合の訪問介護サービス利用について、自治体が制限するという事案が発生した。自治体による制限への対応は様々であり、居宅介護支援専門員の事案に対する対処は、自治体の事業者指導に影響される傾向が文書等で確認された。そこで、自治体による事業者指導に焦点をあてて面接調査時の談話を用いて、ナラティブ分析を実施した。その結果、自治体の事業者指導の類型毎に居宅介護支援専門員の発話構造を分類すると、(1)自治体が積極的に利用制限を指導している場合には、自治体の指導方針について述べた後に、利用者への説得をしたという忠誠型、(2)自治体の指導方針に引き続き、クライアントの希望に応じて他のサービスに振り分けるといったコーピング型、(3)自治体が訪問介護の利用抑制を積極的に、もしくは、全く実施していない場合、自治体の対応-制度の基本原理-自治体の対応に対する批判というVoice型の3類型が確認され、制度認識の構造が自治体指導のあり方で変化する傾向が確認された。以上の結果より、介護保険行政における自治体の事業者指導には裁量があること、その裁量によって居宅介護支援専門員の業務に対する考え方が変化する可能性が示唆された。
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