■研究1「孤独感が精神的健康の低下をもたらす過程に対する関係流動性の調整効果(準実験的検討)」 本年度の第1の検討課題は、孤独感と精神的健康の関係に対する関係流動性の調整効果であった。前年度までに得られた知見の臨床心理学的含意は、人々の精神的健康を左右する要因が、当該社会の関係流動性によって異なる可能性である。日本人大学生を対象に、関係流動性が高い大学入学直後の状況と、入学から1年以上が経過した低関係流動性状況を比較した。すると予測通り、孤独感が幸福感に与える影響に対する自尊心の媒介効果は、入学直後の方が入学1年後よりも強かった。ただし媒介効果の差の有意性検定の結果は有意には至らなかったため、サンプルサイズを増大させるなど、さらなる検討の余地が残る。 ■研究2「自尊心が幸福感に与える影響(3)-準実験による検討」 第2の検討課題として、前年度までに得られた自尊心と幸福感の関連に関する知見を確実なものとするために、準実験的方法を用いた概念的追試を行った。自尊心が主観的幸福感に与える影響の強さに対する関係流動性の調整効果を、大学1年生と2年生を比較することによって検討した。その結果、予測通り、1年生の方が2年生よりも自尊心と幸福感の関連が強いことが示された。 以上の研究の結果は、昨年度までの知見と同様、自尊心が幸福感や精神的健康に与える影響は、関係流動性という社会生態学的環境の特性により左右されるという我々の仮説を強く支持するものである。この知見の臨床場面へのインプリケーションは極めて大きい。
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