研究概要 |
平成21年度は,ネット上における他者の顕現性が,相互作用中の規範意識を高める要因となる可能性を検討するため,匿名状況における他者の基本情報(性別・年齢情報)が,相互作用の中身と相互作用中の規範意識に及ぼす影響について実験的に検討を行った。実験1では,相互作用を行う二者の両方に他者の基本情報を与える条件,両方に他者の基本情報を与えない条件の比較を行い,実験2では,相互作用を行う二者の片方のみに他者の基本情報を与え,二者の間の違いを検討した。実験の結果は,次の二点に整理される。 1.他者の属性情報が分かるときは,分からないときと比較して,自己開示の程度は高かった。また,他者の属性情報が分かるとき,分からないときに比べて,相互作用中の不安感が低く,発言数が多かった。これらの結果は,性別や年代が分からない相手と相互作用を行うことの困難さを示すものであり,匿名なネット上において他者の基本情報が与えられるとき,相互作用の困難さが解消され,そして,相互作用中の不安感は減少し,全体的な発言量が増加すると考えられる。 2.他者の基本情報が分かるときは,分からないときと比較して,顔文字などのパラ言語が少なく,敬語表現が多かった。初対面の相手に対する敬語表現や丁寧語は,日常場面での規範的行動であると考えられる。相手の性別や年齢が分かるときには,日常場面で用いる相互作用方略が利用可能となり,その結果,敬語表現が増加し,ネット独自の言語方略であるパラ言語が減少したと考えられる。逆に,相手の性別や年齢が分からないときには,日常の相互作用方略が利用不可能であるため,代わりに,ネット独自の言語方略や脱抑制的な相互作用方略が用いられたと考えられる。このことから,ネット上における他者の基本情報は,攻撃的言動のようなネガティブな脱抑制的行動を抑制する効果をもっている可能性が考えられる。
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