住民が専門家の言説を活用しつつ主体的に環境の将来像を作り上げていく環境コミュニケーション手法の開発を目的とする本研究においては、環境についての住民の言説と専門家の言説を網羅的に収集するとともに、それらを体系的に集約する方法が必要となる。平成21年度は、前年度に実施したシナリオワークショップ型住民会議の結果を踏まえて、自然科学の専門的言説を住民に対して提示する際の問題点を検討した。専門的言説を住民にわかりやすい形で提示する際に、ある意味でトレードオフの関係になるのが、科学的厳密性や緻密性である。環境影響に関する自然科学の定量的言説を、住民にとってわかりやすい定性的な言説に変換しようとする際、こうしたトレードオフは避けられない。この点について、定量的言説をなるべく活かし、かつ住民にわかりやすい形で情報提供をするために、環境影響の簡易シミュレーターを作成した。具体的には、住民が関心をもつ環境開発をした場合に、環境のどのような側面にどの程度の影響が生じるのか、またその際の経済的コストはどの程度なのかを、定量的データに基づいて出力することのできるシミュレーターである。あわせて、研究フィールドである朱鞠内湖集水域において、補完的に流域環境に関する住民言説の収集をも行った。同フィールドにおいてこれまでに収集した言説群を整理し、作成したツールを適切に活用した環境コミュニケーション手法を開発することが今後(次年度)の課題である。
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