研究概要 |
対話は,言語・非言語行動による二者間のコミュニケーションであり,各自のもつ情報を相手に伝えることや,話題に対する感情や評価を相互に伝え合い共有することに加え,新しい問題解決法を思いつく,新たな自己認識・他者認識に至る,といった創造的・発見的な機能も有している.中でも,心理臨床面接における対話(以下,臨床対話と記す)は,自己認識や他者認識,問題解決法の発見等の機能を十全に発揮している例であり,大きな社会的影響を持つ重要かつ貴重な研究対象といえる.本研究は,社会心理学と認知心理学のアプローチの融合によって,臨床対話の構造,およびそのダイナミクスを実証的に明らかにすることを目的とする. 本研究は,日常の対話と臨床対話との比較に主眼を置く.臨床対話が,日常の対話との比較においていかなる特徴を持ち,どのような社会的影響が作用しているかを,実証的検討によって明らかにすることを目的とする.このため本研究では(1)臨床対話のマクロ的時系列構造,(2)ミクロレベルの情報処理のダイナミクス,の2つの観点から検証を行う.平成21年度までは,深層心理学的アプローチによるカウンセリングおよび一般的な悩み相談を複数事例収録し,対話中の発話と沈黙,カウンセラーの相槌的表現,身体動作,および瞬目を分析し,カウンセラーと非カウンセラーの明瞭な差異を示す結果を得た.さらに非言語行動と発話内容を対応付けることにより,カウンセリング対話のダイナミックな構造を見出した. 22~23年度には,深層心理学に加えて認知行動療法を取り上げた.両者は,その人間観や心理療法観においても異なるところが多く,対極にあるものとして扱われることが多いためである.両アプローチによるカウンセリング対話における,カウンセラーの視線や発話と沈黙,身体動作を分析した結果,アプローチ間の相違が示された.一方で,カウンセラーによるセッションの進め方には,共通性がいくつも見られることが示唆された.今後,カウンセラーの内観を詳細に検討することにより,心理臨床場面の対話の構造について考察する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の「研究実績の概要」で述べたように,本研究は,最初2年間のうちに非言語行動について詳細な検討,続く2年間に異なる学派を含めた検討を進めており,最終年度である今年度は,最終的な詳細な検討をする段階にある.研究成果の発表もこれまでに行ってきているのに加え,今年度はより積極的に国内・国際学会誌で成果報告するとともに,1冊の書籍で成果を発信することを計画している.したがって,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は,非言語的行動の定量的データと,クライエントとカウンセラーの発話や内観との対応をより詳細に検討する.このことにより,上手な聴き手のもつ特性,ならびに,話し手のこころの変化のプロセスに関して考察を深める。 本年度は最終年度であり、これまでの一連の成果を統合し、国内・国際学会誌に投稿するとともに、1つの書籍として公開することをめざす。本研究グループはこれまで約7年間にわたり本研究テーマに取り組んでおり,異分野の研究者からも関心を寄せられる成果を出してきた.これから1つの書籍に成果を統合することにより,共感性および対話に関する多角的な理解を発信することを目指す.
|