公共事業において社会全体の利益を追求する行政と、それによってさまざまな負担を強いられる地域住民との利害対立をどう調整すべきかは重要な問題のひとつである。平成21年度におこなった研究の目的は、福野(2006a)で確認された公共事業紛争の対立構造に対する一般市民の認知次元(相手の軽視、価値観の不一致、相手への敵意、正邪[対立が生じるのは一方に非があるという見方])を別のサンプルをもちいて再検討するとともに、そうした対立が当事者のどのような利害関心によると知覚されているかを明らかにすることである。さらに、これら2つの認知の関連も検討した。福野(2006b)は公共事業紛争の当事者である行政と反対住民がマイクロな公正関心とマクロな公正関心の両方をもつと仮定した。反対住民のマクロな公正関心が知覚された場合、その対立は行政が地域の利害を離れた住民の主張を軽視することによる関係的な対立とみなされやすいと考えられる(仮説1)。他方、行政のマクロ公正関心と住民のマイクロ公正関心の両方が知覚された場合、その対立は純粋に利害の不一致もしくは価値観の相違によるものと解釈されやすいだろう(仮説2)。平成20年度におこなった調査データを分析した結果、公共事業紛争の対立構造の認知次元は福野(2006a)のそれとほぼ同様であったが、敵意が独立した次元として区別されなかった。また行政側の公正関心もマイクロとマクロに明確に区別されなかった。重回帰分析の結果から仮説1は部分的に支持された。住民のマイクロ公正関心と軽視の間にみられた正の関連は、一般市民が住民のマイクロ公正関心を正当と知覚していることを示唆する。また仮説2も部分的支持にとどまった。一般市民による行政側の利害関心認知は対立が価値観の不一致によるものかどうかの判断に影響しないことが示唆された。
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