研究概要 |
公共事業において社会全体の利益を追求する行政と、それによってさまざまな負担を強いられる地域住民との利害対立をどう調整すべきかは重要な問題のひとつである。平成22年度におこなった研究の目的は、平成20年度に実施した調査および平成21年度に行った調査データの分析を通して得られた結果が、近年の公正研究の文脈からみて、どのように位置づくかを文献研究により考察することであった。その結果得られた視点のひとつは、公正世界信念(belief in a just world, Lerner & Simmons, 1966)がマクロ公正判断の規定因になりうるのではないかというものであった。マクロ公正判断が集団における全体的な資源分布の公正さに注目することで生じるなら、「世の中は公正な世界であり、よいことをした人は報われ、悪いことをした人は処罰される」という信念(公正世界信念)は、当事者が受ける負担を認知的に解釈しなおす機会を与え、マクロ公正判断を促進するだろう。つまり、公正世界信念を喚起させることによって、事業実施にともなう負担は、当事者にとっては不満をもたらすものであっても、利便性の地域格差をなくす平等化を実現する上では必要であるという認知を生むと考えられる。こうした認知はマクロ公正感を強め、公共事業などの社会政策の受容を高めるだろう。また公正世界信念は、近年研究が増加しているシステム正当化理論(Jost & Banaji, 1994)とも親和性が高く、人々のシステム正当化動機と公正世界信念およびマクロ公正判断との関連を理論的および実証的に検討していくことの必要性が示唆された。平成22年度における文献研究の成果の一部は、平成23年度に出版予定の「展望現代の社会心理学3第4章社会的公正」に反映されている。
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