本研究の目的は、他者の多様性を受容する態度、つまり「寛容(tolerance)」の発達について、他者の集団への受け入れについての判断から検討するものであった。 本年は、寛容が人間の発達においてどのような意味があるのかということを探るために、大学生を対象に質問紙調査を行った。具体的には、寛容な態度の育成に関係する体験として、外国人や年の離れた人との交流を取り上げ、寛容な態度がもたらすメリットとして、互恵的なネットワークの構築(社会的な側面)と生活充実度(心理的な側面)を取り上げた。その結果、年齢、性別などの要因を統制しても、ネットで年の離れた人との交流が「意見の異なる他者に対する寛容性」、ネットでの外国人との交流が「迷惑行為をする他者に対する寛容性」に関係した。また、「意見の異なる他者に対する寛容性」の高さは、生活充実度と「知人の中での手助けをしてくれそうな人」の人数、「迷惑行為をする他者に対する寛容性」は「友人の中での手助けをしてくれそうな人」と「近所の人の中での手助けをしてくれそうな人」の人数と関係がみられた。このように、異質な他者との日常的な交流が、寛容な態度を育成し、またこのような態度が、社会的・心理的な益をもたらすことが示唆された。 従来の研究は、寛容が「徳」であり社会的に要請される「望ましい態度」であるという前提から出発していることが多い。しかし、異質な他者を受け入れるということが、人間の発達においてどのような意味があるのかを問う必要があると考える。本研究は、「寛容という望ましい態度を身につける過程」としてではなく、寛容が本人および集団にとってどのような意味を持つものであるのかを探る研究の端緒となるものである。
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