本研究の目的は、対人的信頼行動の必要性や経験に応じて、人々がデフォルト推定値としての信頼をもたなくなり、対象となる他者個々人について、個別の判断を行うようになることを明らかにすることにある。平成20年度の計画は、参加者がPCに提示される状況にひとつずつ回答し進めることで、最終的にどのような信頼戦略を有しているのかを調査できるツールの開発を行うというものであった。平成20年は、まず社会心理学の領域に限らず、脳科学、行動経済学、進化心理学、社会学等、様々な隣接分野における関連研究を200編以上レビューし、信頼研究の知見を整理するとともに、研究の手法について知識の蓄積を目指した。また、測定ツール構築の具体的な手続きとして、大学生がさまざまな課題(集団意志決定、集団問題解決)を行う場面をビデオ撮影し、その画像を編集することで、信頼戦略調査ツールの素材を多数作成した。この素材を用いて予備調査を行い、人々が他者の信頼性を判断し、その他者を信頼すべきか否かを判断するために利用する情報を選び出す作業を行うことを目指していたが、個人が特定されない形に画像を撮影、編集するために、当初想定していた以上の困難と試行錯誤が伴い、十分な予備調査を行う段階には至らなかった。本研究は最終的には、大学生に限らず、一般社会人、リタイア後の世代も対象として信頼戦略の測定を行う予定であるが、平成20年度は、リタイア後の世代を対象とし、負担の少ないインタビュー形式で信頼戦略を測定する方法についても検討し、プレ調査を行う準備段階に入った。
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