従来の研究では、信頼性のデフォルト推定値としての一般的信頼をめぐり理論的および実証的研究が蓄積されてきている。しかし、研究代表者の近年の研究では、デフォルト推定値としての信頼感だけでなく、信頼性情報への反応を含めた形で「信頼戦略」を考える必要性が示唆されてきた。そこで本研究では、信頼戦略の測定ツールを作成することを目的としている。 平成21年度は、信頼戦略測定のための材料の作成および予備的調査を行った。信頼戦略測定のための材料は、信頼性に関する行動情報と、信頼性情報を示唆する映像情報から成る。これらを用いて、他者の信頼性判断にあたって人々がどのような戦略を用いているのかを、大学生41名、大学院生および社会人52名の対象者に提示した。同時に回答をもとめた調査票への回答と対で分析した結果、信頼感の高低と信頼性判断の正確さの間に負の関連が見られた。この結果は、信頼感の高い人々が信頼性判断の精度が高いという先行研究の結果と対立するものである。さらなる分析の結果、交友範囲および中間集団への所属は信頼性判断の精度を上げない一方、親密度の低い相手との相互作用の量が信頼性判断の精度と関連している可能性があることが明らかとなった。この結果は、研究開始時点の予測とは若干異なるものであるが、同時に、信頼戦略に影響を与える社会的環境についての理論化にとって重要な知見を提供するものであった。また、上記の調査では、大学生と院生を含めた社会人では信頼性判断と諸変数の関連構造が異なっており、社会的経験の量と信頼戦略の関連については今度さらに実証研究が必要であることが明らかとなった。
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