本研究は、人々の社会意識・社会的背景と、用いられる信頼戦略の関連を明らかにすることを目的としている。平成23年度は、平成20年度、21年度に作成した信頼戦略測定用刺激を用いて、一般社会人を対象とした2つの調査研究を行った。具体的には、3ペア(6名)の学生が討議をしている映像をweb調査により回答者に提示し、これら6名の学生が、現金を用いた分配実験において3000円を自分と他者の間でどのように分配したかの予測を求めた。第1調査では20歳~60歳の男性回答者800名が、各ペアについて3本(各1分)の討議映像を見て、各映像の視聴後に分配額の予測を行った。調査2では、20歳~60歳の男性回答者400名の回答者が、各ペアについて30秒の無音声の討議映像を視聴し、分配額の予測を行った。なお、2つの調査の方法上の違いは、第2調査では刺激人物の発言内容ではなく、会話時の表情やしぐさをもとに信頼性判断を行うのに対して、第1調査では、発言内容にもとづき信頼性判断を行う点にある。この目的のため、第1調査では刺激映像における人物の顔には処理が施された。調査1、調査2の2つの調査において、信頼感尺度により測定された一般的信頼と信頼性判断の正確さの間に有意な相関は得られなかった。この結果は、社会心理学において強い影響力をもった山岸(1998)の信頼の解き放ち理論の基礎を提供するとされた「高信頼者は他者の人間性を見極める高い社会的知性を併せ持つ」とする主張と矛盾するものであり、当該研究課題による平成21年度の実験結果とも併せて、解き放ち理論の信頼性に疑問を投げかけるものであった。回答者の所得、職業、職務内容等は、信頼性判断の正確さと部分的な関連が見られたが、信頼戦略の明確な予測が可能となるような強い関連性は見いだされなかった。
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