研究概要 |
本年は3つの研究課題を並行して進めた。1.比較的高度な認知能力と反応速度との関係が指摘されているが,因果の方向性に関して結論を得ていない。そこで,その方向を探るために有用な統計的技術に関し,2変数のみでも因果の方向を特定できる高次積率を用いた構造方程式モデリングについて,シミュレーション実験によって検討した。その結果,まれに失敗したケースがあったものの,多くのケースでは期待した通りに因果の方向を特定できた。さらに,3変数の双方向モデル,3潜在変数の双方モデルを取り上げ,シミュレーション実験を行った結果,2変数の双方向モデルでは,2変数の相関係数が0.2程度であっても,400名の標本で正しく因果の方向を特定できる可能性の高いことが示された。しかも,2変数の相関が0.4を越えるなら,200名の標本で因果の方向を正しく特定できる可能性が高いことがわかった。また,3変数の双方向モデルでも400名の標本で因果の方向を特定できる可能性の高いととが示された。2.認知能力の研究を推進するために因子分析が開発され,今日でも研究開発が進んでいる。そこで,パーソナルコンピュータによって利用できるソフトウェアを念頭に置き,現代の因子分析における5つの論点,すなわち,(1)抽出すべき共通因子の数,(2)因子抽出法,(3)因子の回転,(4)因子パターンと因子相関の標準誤差,(5)カテゴリカルデータの因子分析に関して検討を加えた。3.認知能力に関する文献研究と認知能力を測定する既存の心理検査問題を引き続き検討し,CHCモデルの広範因子の1つである流動性能力Gfに注目して,短時間でそれを測定するための検査問題の検討を行った。そして,その妥当性を探るための準備を進めた。
|