研究概要 |
比較的高度な認知能力と反応速度との関係が指摘されているが,因果の方向性に関して結論を得てないので,その方向性を特定する準備を進めてきた。本年は昨年に続き,その方向性を探る統計的技術に注目して行った高次積率を用いた構造方程式モデリングに基づくシミュレーション実験をInternational Congress of Applied Psychology 2010(ICAP 2010)で報告した。また,独立成分分析を用いて因果の方向性を特定する方法が提案されているので,その方法と高次積率を用いた構造方程式モデリングとを実データに基づいて比較検討し,ほぼ同様の結論を得ることができることを確認した。その結果は日本教育心理学の第52回総会で報告された。しかし,実データを用いた比較検討とは別に行ったシミュレーション実験によれば,高次積率を用いた構造方程式モデリングの方が正しい方向を的中する確率は高いことが示された。引き続き,詳細について分析する予定である。さらに,高次積率を用いた構造方程式モデリングに基づいて推定されるパス係数の標準誤差の推定精度について,シミュレーション実験を用いて検討したところ,いずれの条件においても,真の標準誤差よりも小さく推定される傾向のあることが示された。ただし,この方法は大きな標本を用いて実行するので,パス係数の有意性検定の結果,つまり,有意となるかどうかということに関しては特段の問題のないことが示唆された。この点についても引き続きシミュレーション実験の条件を増やして検討する予定である。研究を進める中で作成したプログラムとこの研究で得られた知見は「心理・教育のためのRによるデータ解析」の中において公開される。また,CHCモデルを中心とする知能理論と既存の個別式知能テストを概観し,若干の展望を含めて発表した。
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