本研究の目的は、自伝的記憶の安定化傾向を青年期~成人期で検討するとともに、意味記憶やエピソード記憶の変化も合わせて検討することで、記憶システムの中での自伝的記憶の位置づけや、記憶システム全体の加齢変化をも併せて明らかにすることである。平成21年度は以下の成果が得られた。 第一に、青年期と成人期の協力者を対象に、自伝的記憶想起と意味記憶検索の安定性を比較するための実験を行い、平成20年度に得られた成果を確認した。青年群(19~25歳、30名)と成人群(33~54歳、31名)が参加した。「暗い」「協力的な」など5つの性格特性語を呈示し、各特性語があてはまる経験(自伝的記憶課題)ならびに各特性語の類義語(意味記憶課題)を2つずつ回答させた。1回目の調査から約10週後に2回目の調査を実施し、2種類の課題のそれぞれについて、1回目と2回目に反復して回答された記述を数え、想起・検索の安定性の指標とした。20年度のデータも併せて分析したところ、意味記億課題では群間の差は有意でなく、自伝的記憶課題でのみ成人群の安定性が有意に高く、先行研究の知見が確認された。また想起された出来事について記憶特性質問紙を実施した。しかし反復想起された出来事に、内容面・想起面の顕著な特徴は見いだされなかった。 第二に、Zimbardoの時間展望尺度日本語版を作成した。これは幅広い年齢層で使用出来る時間展望尺度であり、記憶の加齢変化の背景要因を探る尺度として活用が期待出来る。 第三に、実験室的エピソード記憶課題と自伝的記憶課題を比較検討するための準備として、エピソード記億の加齢変化に関する先行研究の検討を行った。その結果、多試行自由再生で見られる"lost-access"、"gained-access"現象と比較することが、自伝的記憶の独自性を検討する課題として有効であるとの着想に至った。
|