本研究の目的は、加齢に伴う変化という視点から自伝的記憶の特性を明らかにするとともに、記憶システム全体の中で自伝的記憶の位置づけを明確にすることである。22年度は(1)自伝的記憶とエピソード記憶の関係、(2)記憶の意味づけの加齢変化、という2側面を検討し、20年度からの成果を合わせて統合的モデル化を試みた。 3つの研究を行った。第1に、自伝的記憶とエピソード記憶を比較した。自伝的記憶課題として参加者は、性格特性語を手がかりに自らの経験を2つ想起した。エピソード記憶課題として参加者は、ある人物がある性格特性語に合致する行動をしたことを示す文を5つ学習した後、性格特性語を手がかりに2文を想起した。いずれの課題も1週間間隔で2回繰り返した。青年群(18~22歳)と成人群(34~49歳)の結果を比較したところ、自伝的記憶課題のみ、成人群が青年群より安定性が高いことが示された。第2に20~70歳代の参加者に最早期記憶の想起を求め、想起過程や意味づけを問う記憶特性質問紙への回答を求めた。その結果、20歳代よりも中年期以降の方が最早期記憶を鮮明に想起し、現在の自己とのつながりを意識していることが示された。第3に20~70歳代の参加者に、中学時代の教師とのコミュニケーションの経験を想起させ、記憶特性質問紙への回答を求めた。その結果、20歳代よりも中年期以降の方が、教師とのコミュニケーションを鮮明に想起し、自己にとっての意味づけを強く認識していることが示された。第2・第3の研究は、時間経過に伴い想起の鮮明さや意味づけが強まることを示しており、時間経過に伴う減衰の影響を受けにくいという点で、自伝的記憶の独自性が示唆される。 20~22年度の成果に基づき、自伝的記憶は意味記憶やエピソード記憶とは異なる構造・機能を有するシステムとして記憶システムの中に位置づけられると言える。
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