本研究の目的は、(1)長期縦断研究により関係性のレベルから見たアイデンティティの発達的な方向性を検討するとともに、(2)短期縦断研究により関係性のレベル変化のメカニズムを明らかにすることであった。具体的には、第1に、研究代表者がこれまで大学3年生から卒業までの3時点および卒業後5年目に追跡調査を行った約30名の対象者について、卒業後10年目の追跡調査を実施し、11年間(計5時点)にわたる関係性のレベル変化とその要因を明らかにする(研究1)。第2に、大学生を対象とする約6ヶ月間の短期縦断研究を実施し、レベル移行のプロセスをリアルタイムで記述する(研究2)。 このうち22年度の目的の1つは、大学1年生12名を対象にした15週間の大学への初期適応を通したアイデンティティ発達のプロセスとメカニズムに関するデータを分析し、どのような条件のもとで関係性のレベルの変化が生起するのか(しないのか)を検討することであった(研究2-1のデータ分析)。分析に予想以上の時間がかかり、現在も分析中である。現在のところ、自己と他者(本研究では学生と仲間)のグループ討論からいくつかの対話のパターンを抽出しつつある。その後、それぞれのパターンがどのような推移をたどるのかを検討する分析に進む予定である。また、他者との対話(グループ討論)の長期的なアイデンティティ発達への影響を検討するために、同一対象者について、調査終了1年後のフォローアップ調査を行った。 22年度のもう1つの目的は、大学3年生約20名を対象に、就職活動をはさんだアイデンティティ発達のプロセスとメカニズムを検討することであったが(研究2-2の実施)、研究2-1の分析が非常に労力のかかるものであるため、25名分のデータをすべて収集し終えたうえで、分析を見合わせた。
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