研究概要 |
本研究の目的は,教師に期待される「児童を引き上げる指導性」と「児童を受け入れる指導性」という,矛盾・対立した二つの指導性機能を教師が無理なく同時に実践できる新たな指導方略を提起して,教師の学級経営力向上に活用できる理論的・実践的研究をおこなうことにある。 平成22年度は,昨年度実施した本調査の継続分析とまとめである。指導行動カテゴリー尺度,児童の課題意欲・学級連帯性・課題成果評価項目にて構成された質問紙を最終的に小学校教諭191名に実施,小学4~6年(34学級)児童に課題意欲と学級連帯性の質問紙を実施し,統計的分析をおこなった。その結果,高学年ではひきあげる機能の突きつける指導行動と受け入れる機能の理解行動との間に正の相関がみられ,いずれの行動も教師が多く実施するとき,教師評定による児童の課題意欲,学級連帯性,規律遵守度の評定値が高いことが示された。中学年では受け入れる機能の理解行動によって,児童の諸側面の評定値が高い結果となった。また,児童評定による本人の課題意欲・学級連帯性評定では,学級連帯性のみ教師評定と一貫した結果が得られた。学年によって指導行動内容にみる2つの指導性統合の具体像が異なり,児童の資源や課題性の違いが影響したと示唆される。 加えて,教師の二つの指導性機能の統合の仕方の仮説提起に向けて,2つの指導性機能に対応する指導行動が一年間の学級経営のなかでどのような流れで生起するか検討するために,ある高学年学級を対象に一年間の時系列的調査(フィールドワークと教師・児童対象の質問紙)を実施した。分析の結果,一学期は受け入れる機能として児童の資源に応じた課題調整行動を教師は多くとるが,2学期になると減り,かわりに児童に課題を突きつける指導行動が増加すること,教師-児童の対立が顕在化するが,3学期には学級内の連帯性と児童の自律性が向上することが示された。
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