研究概要 |
平成20年度は,新たに案出した授業者視点カメラ法を用いて熟練教師と初任教師の授業後の反省的思考を比較検討した。なお,授業者視点カメラ法とは,授業者の視点にごく近い位置(右耳の上)からCCDカメラにより授業を撮影し,その映像を自己リフレクションの手掛かりとして提示する方法である。共同作成してもらった同一の指導案に基づき両教師に2回ずつ小学校3年生の算数の授業を行ってもらった。分析においてはまず,視線映像を10秒ごとに一時停止状態にしたうえで,その時の教師の視線の向きを分類した。その結果,視線の向きは熟練教師,初任教師ともに,「広範囲の児童」「特定児童」「黒板」の順に多いことがわかった。つぎに,自己リフレクションの逐語録について,その児童に視線を留めたきっかけ,手掛かりとした文脈情報,省察の内容から分類した。その結果,熟練教師は初任教師の2倍以上の頻度で反省的思考を行ったこと,その際,視線を留めたきっかけは,熟練教師には意図をもって向けた視線が多く,初任教師には机間指導中の確認が多いこと,思考の手掛かりとした文脈情報はともに「その時点の活動内容」が最も多いこと,そして,省察の内容は両教師ともに「児童の理解度や学習態度」に関する省察がほとんどであったが,熟練教師には「児童の考えを授業に活用」する省察も比較的多いことが明らかになった。なお,初任教師には1回目の自己リフレクションから2回目の自己リフレクションにかけて反省的思考の頻度の増加と思考内容の変化が認められた。
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