研究概要 |
本研究の目的は,学習した概念の転移が成立する心理過程をモデル化する作業を通して,いかなる教授的介入によって,概念転移の困難さを克服できるのかという問いについて実証的に検討することである。 本年度は,科学的概念の転移過程を説明する仮説モデルについて,大学生を対象として実施した調査データに対する統計的な検証を試みた。特に,物理学(力学・光学)領域に焦点をあて,学習した科学的概念の転移の成立に,いかなる要因が関わっているかを検討した。転移課題の成績に関わる要因として統計的な有意性が確認されたのは,(1)概念構造の変換・操作(問題構造の特性に合わせた概念構造の変換),(2)一般化可能な概念情報の抽出(学習教材からの概念構造の本質に関わる情報の抽出),(3)学習した概念に対する一般性の認識(概念と多様な事例との関連性の認識),(4)領域知識等の事前知識の獲得や専門性の程度(力学や光学に関する学習経験・事前知識),(5)学習事例への興味・関与の程度(説明教材の面白さ・関心の強さの評価)の5つであった。また,各変数の転移課題成績への影響の強さを比較したところ,特に重要な要因は(1)であることが分かった。一方,(4)の影響度はさほど大きくなく,知識の学習量は重要な変数ではないことも明らかになった。 上記の調査研究に加え,教育現場で実践に利用されている科学的概念の学習に関わる種々の教材を収集し,整理・分類を行った。次年度は,既存の学習教材の中で,上記の(1)〜(5)の要因に影響する教材を選択し,転移との関係について調べることを予定している。
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