研究概要 |
本研究の目的は,学習した概念の転移が成立する心理過程をモデル化する作業を通して,いかなる教授的介入によって,概念転移の困難さを克服できるのかという問いについて実証的に検討することである。 前年度は,物理学の領域に焦点化し,概念学習の転移成績に関わる要因の探索を行った。本年度は,数学(方程式)領域をターゲットし,転移の促進に関わる学習法について調べた。具体的には,文系の大学生を対象とし,(1) 2次方程式の解法の学習(既習内容の確認)のみを行う群,(2) 解法の学習に加え,解の公式の変換操作(公式の形を変える手続き)を学習する群,(3) 解法の学習に加え,求積や比例概念への応用手続きを学習する群を設定し,求積やグラフ,因数分解等の転移課題における成績を比較した。まず,成績は(2)>(3)>(1)の順となり,公式の変換操作を学習することが学習の転移可能性を高めることが確かめられた。また,転移課題の成績の促進に関わることが確認された変数として,(1) 解の公式の変換操作の多様性,(2) 解の公式に関する事前の熟知性,(3) 数学領域への興味関心度,(4) 領域知識等の事前知識の獲得水準(求積・比例・因数分解等に関する基礎的な理解)であった。なかでも重要な要因となるのは(1),(2)の両変数であった。数学における応用力を育成する手段としては。現実的には練習問題・応用問題の繰り返しを行うことが一般的であった。しかし,本研究の結果は,問題解決に利用する公式(概念)の構造自体を変換する操作を学習することも応用力の促進に寄与する可能性があることを示唆した点で意義が認められるだろう。
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