研究概要 |
本研究の目的は,学習した概念の転移が成立する心理過程をモデル化する作業を通して,いかなる教授的介入によって,概念転移の困難さを克服できるのかという問いについて実証的に検討することである。昨年度までの研究で,物理と数学の領域の中から学習課題を選び,学習時の介入条件(学習法・教材の構造特性)および学習者の個人差(事前知識・認知的操作スキルや興味・関心の程度等)を実験的に操作し,転移課題成績との関係について調べてきた。本年度は,(1)ここまで得られた実験的なデータをもとに概念転移を促進する学習過程のモデルを作成する,(2)実際の授業の中で,学習内容の転移の促進(応用力の向上)が,どのような教授活動によって試みられているかを推定する,(3)その教授活動を学習過程のモデルにあてはめ,モデルの妥当性について考察するという3点を中心に研究を行った。その結果,(1)については,既に学習している概念(公式・法則等)を操作する一般的な認知的スキルを有している,もしくは,そのスキルを改善する学習活動を含む教授的介入により,学習の転移が成立することを説明する仮説モデルを構築した。(2)については,主に小・中学校における授業記録,指導案等を収集・分析し,転移の促進に関わると予想される具体的な教授活動として,たとえば,複数の例示・例題の活用,他の単元における学習内容との関連づけ,日常生活場面との関係性を想起させる発問,応用問題練習,作問活動などを抽出した。(3)については,(2)で挙げた各教授活動が,転移可能な概念の学習過程の,どの部分に影響するのかを理論的に考察した。実際の授業における学習場面では,応用力を向上させる主な手段としては,応用問題練習が多用されている。その場合でも,本研究の結果を踏まえると,「概念操作スキルの獲得」を意図した練習問題の選択や配列を考えることが重要であると考えられる。
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