研究概要 |
高齢者の記憶の誤りの生起には,それまでの経験が影響するのか,それとも本人のパーソナリティ等の要因が影響するのかを検討することを目的に,本年度は自己の記憶能力に対する自信度を測定するメタ記憶の尺度化を試みた。15項目から構成される本尺度を高齢者94名と若年者277名に実施したところ両群共通に1因子構造が確認された。また,α係数は両群とも0.8を超えており尺度としての信頼性も十分であった。高齢者の記憶の自信度を測定する簡便な尺度の開発は,不安等の老いに対する態度形成を分析するために有効であろう。今後は,本尺度成績と高齢者の日常生活における積極性および自己に対する多面的なメタ認知との関連性を評価し,さらに記憶の歪曲との関連性を検討する予定である。 また,高齢者の記憶の誤りを実験的に検討するために,ソースメモリおよび虚偽記憶に関する文献研究を行い,連想方略を用いるDRMパラダイムによる実験を計画し,若年者と高齢者対象に実施した。課題として文字(視覚)と音声(聴覚)によって90単語を連続提示し,直後再認を測定した。その結果,正再認においては,高齢者は若年者よりも成績が悪かったが,虚再認には有意差が認められなかった。虚再認に年齢差が認められなかった理由としては,視覚と聴覚の2つのモダリティに刺激語を同時に提示したことが示差性を高めたため,年齢差が無くなったものと考えられる。高齢者の虚偽記憶を低減させ,記憶の誤りを減少させる方法の1つとして重要な知見が得られたと思われる。今後は,この知見をもとに歪曲された記憶の定着過程,すなわち記憶の変容過程を検討する(一部実施済)。
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