本プロジェクトは、臨床心理学における質的研究の役割について明らかにしつつ、その教育法について具体的なプログラムを作成し、その実施の指針となるような報告書・参考書を作成することを中心的な目的とする。そのために初年度は、文献調査や質的研究法を利用した研究実践を通じて、心理臨床実践技能との関わりも考慮しながら質的研究に必要とされる技能を明らかにすることを試みた。 文献調査の中間報告としでは、論文および学会のシンポジウムや講演のなかでその成果を部分的に公表し、それをもとにした著作の執筆を進めている。具体的には、質的研究を研究方法に関する研究として、メタ的な視点から捉え直すこと、また、特にインタビューを用いたナラティヴ研究め方法については、テクスト収集から分析にかけてのプロセスを対話というメタファーで捉え直すことを試みた。 実証的な研究としてはいくつかの共同研究を並行して行っているが、平成20年度はまず、失語症者に関するインタビュー研究を発表した。この研究は、インタビューが困難とされる失語症の様々なタイプを包括した点にオリジナルなところが見られる。また、障害者きょうだいに関する自己エスノグラフィに関する学会発表も行ったが、これはインタビュアーとインタビュイーの語り合いのなかで、ナラティヴを共同構築していくという方法論的にも新しい試みである。 さらに、心理臨床家の方へのライフ・ストーリーインタビューを続けるなど質的研究の実践を継続したほか、質的研究の教育に力を入れているSyracuse大学教育学部の学部・大学院の質的研究方法論に関する授業を見学し、その上でインストラクターにインタビューを行った。これらの資料は、21年度以降の研究実践・調査に生かしていく予定である。
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