本プロジェクトは、臨床心理学における質的研究の役割について明らかにしつつ、その教育法について具体的なプログラムを作成し、その実施の指針となるような参考書。テキストを作成することを中心的な目的とする。そのために平成22年度は、(1)心理職・研究者に対するインタビューデータを分析してライフストーリーとしてまとめる、(2)臨床心理学とその関連領域の質的研究者と交流し研究法について整理する、(3)欧米の質的研究の教育現場で使われている教育法とその効果についての検討を進める、といった実践を通じて、テキストの細部を書き進めた。より具体的な成果をあげれば、(1)については特定の心理専門職の語りに焦点を絞って分析を行い、分析の視点を変化させることによって浮かび上がってくるライフストーリーの異なるバージョンが浮かび上がってくることを例示するとともに、複数の研究者の協働による分析の効果を探って、その長所と短所を明らかにした。(2)、(3)については、カナダで行われた質的方法論の学会において、教育法に関わるいくつかのワークショップに参加したほか、我が国において国際シンポジウムを開催して質的研究の質に関する議論をするなど、海外の研究者との交流を深めた。こうした実践のもとで得られた知識を我が国の教育場面に応用しながら、質的研究法のテキストの執筆に生かしていった。並行して、そのテキストのエッセンスを短くまとめるような形で、質的研究の意味や、臨床心理学における質的研究の位置づけに関する文章を、書籍の分担執筆の形で発表したほか、研究実践事例として、臨床/調査インタビューにおける語りのとらえ方についての発表を行った。また、質的研究の教育法についての研究発表や講演も何件かこなした。テキストは、2011年5月に東京大学出版会から出版される予定である(単著、約380頁)。
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