本プロジェクトは、臨床心理学における質的研究の役割について明らかにしつつ、その教育法について具体的なプログラムを作成し、その実施の指針となるような教科書を作成することを中心的な目的とする。 平成23年度には、このプロジェクトの中心的目標であった教科書の出版にこぎつけることができた。同書は平成23年5月に東京大学出版会から、全14章366ページの分量で出版された。本書を教科書ないし参考書とした授業やワークショップは、この直後より大正大学大学院、東京大学教育学部、臨床心理士会等で行われた。その使い方については、授業の性格によって変えていかざるをえないが、今後も検討を加えていく予定である。 また平成23年度は、これまで収集したデータの分析を続け、いくつかの成果を発表した。国際学会30th International Human Science Research Conferenceでは、インタビューデータの画像分析の試みを発表したほか、国内学会では特に日本心理学会75回大会において、質的データの共同分析の方法論とその成果について一連発表を行った。他にも、新聞報道された東日本大震災の被災者の語りを対象にして、ディスコース分析の手法を用いた検討も行った。これらの研究は、従来行われがちであった質的研究の分析法の可能性を広げるものである。特に共同分析の方法については教育方法の一貫として活用できるものであり、本プロジェクトの次のステップへの土台となりうると考えられる。 さらに、学会への参加を通じて、内外の研究者と交流し、質的研究の教育法についての意見交換を行った。平成23年度中には行えなかったものの、24年度前半にはクラーク大学からM.Bamberg教授を本務校に招き、講演ないしワークショップを行うことで、臨床心理学における質的研究法の新たな方法の探索を続けていく予定である。
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