甲状腺疾患は、古くから心身症の1つとして挙げられ、その心理的側面の重要性はこれまでも指摘されてきた。 前年度の研究を引き継ぎつつ、バウム・テストと半構造化面接を用いて、バセドウ病(機能亢進)、慢性甲状腺炎(機能低下)、結節性甲状腺腫の間を比較しつつ、今年度はさらに対照群として神経症群のデータをとった。 神経症群との比較によって、3つの甲状腺疾患患者のパーソナリティがより明らかになった。1.描画テストによると、バセドウ病が一番水準がよくて、比較的神経症に近く、これまで心身症と考えられてこなかった慢性甲状腺炎と結節性甲状腺腫の患者の方が、病態水準が悪く、いわゆるアレキシサイミアの特徴を呈することが示唆された、2.半構造化面接によると、バセドウ病の人が一番心理的な問題に近く、また関係性に生きていて、慢性甲状腺炎は隠れた形での関係性が重要、結節性甲状腺腫では社会的疎通性が欠け、場の意識が希薄ということがわかった。 さらに、縦断的研究においては、バセドウ病においてホルモン値が正常化された人では描画テストによると自我境界の改善が見られたのに対して、ホルモン値が正常化されない難治性の人では自我境界の改善が見られず、ホルモン値の変化と、心理的指標の関連が認められた。 従来心理的問題が関連していると考えられてきた身体疾患よりも、むしろ純然たる身体疾患と考えられてきたものの方が、こころからの解離という意味では重篤であることが示唆される。
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