本研究は「失感情傾向は疼痛認知および疼痛対処を介して慢性疼痛症状を強める。」との仮説を、心療内科を受診する慢性疼痛患者への質問紙調査(横断研究)によって検証するものである。失感情傾向とは、感情を認識・表現できず、心理的要因と症状との関係がわからない心理的傾向である。その傾向のある患者は、痛みとストレスとの関連性が認識できず、痛みを身体の器質的損傷に由来すると認知する(疼痛認知)。そのため痛み部位を動かさない、過度の休息をとりすぎるなど(不適切な疼痛対処)のため、疼痛や生活障害など慢性疼痛症状が悪化すると考えられる。本研究課題は、この仮説を検証して失感情傾向が慢性疼痛症状に及ぼす影響を明らかにするのが目的である。 平成20年度は慢性疼痛患者115名から失感情傾向と慢性疼痛症状に関する質問紙データを得ることができた。平成20年度後半からは、それらに加えて慢性疼痛への対処法を評価する質問紙であるCPCIのデータ収集も開始し、36名分のデータを得た。 また、調査で用いる質問紙の妥当性を検討する一環として、慢性疼痛患者における質問紙の因子構造を確証的因子分析で確認した。疼痛症状を測定する日本語版SF-MPQの因子構造が英語版と同様、感覚要素と感情要素の2因子からなることを確認した(第49回日本心身医学会総会)。また、失感情傾向を測定するTAS-20日本語版の慢性疼痛患者における因子構造が先行研究と同様の3因子構造になることも確認した(第50回日本心身医学会総会にて発表予定)。 これらは研究で用いる獲痛症状、失感情傾向質問紙の因子的妥当性を支持するものである。
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