本研究課題は「失感情傾向は疼痛認知および疼痛対処を介して慢性疼痛症状を強める。」との仮説を、心療内科を受診する慢性疼痛患者への質問紙調査(横断研究)によって検証するものである。失感情傾向とは、感情を認識・表現できず、心理的要因と症状との関係がわからない心理的傾向である。失感情的な患者は、痛みとストレスとの関連性が認識できず、痛みを身体の器質的損傷に由来すると認知する(疼痛認知)。そのため痛み部位を動かさない、過度の休息をとりすぎるなど(不適切な疼痛対処)のため、疼痛や生活障害など慢性疼痛症状が悪化すると考えられる。本研究課題は、この仮説を検証して失感情傾向が慢性疼痛症状に及ぼす影響を明らかにするのが目的である。 平成21年度は慢性疼痛患者119名分のデータを収集し、研究で使用する質問紙の妥当性信頼性を確認した。さらに失感情症と慢性疼痛症状との関連性の解析に着手した。慢性疼痛への対処法を評価する質問紙であるCPCIの妥当性と信頼性を確認し(n=79)、第39回日本慢性疼痛学会で発表した。また、失感情傾向6質問紙であるTAS20の因子構造が先行研究と同様の3因子構造になることを第50回日本心身医学会で発表した。これは日本の慢性疼痛患者におけるTAS20の因子妥当性を示している。 本年度予定していた失感情傾向と慢性疼痛症状との相関分析については、仮説通り失感情傾向と生活障害との間に正の相関を見いだした。疼痛認知・対処の質問紙データの収集について、本年度は疼痛認知の質問紙(SOPA)データ収集を計画していたが、CPCIのデータ収集が予定より遅れており、対象患者の負担も考慮して本年度は収集を開始していない。CPCIの標準化データ収集が完了した後に、SOPAのデータ収集も開始する予定である。
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