平成22年度は本研究課題で使用する疼痛生活障害尺度(PDAS)および日本語版慢性疼痛対処質問紙(J-CPCI)の妥当性信頼性を確認し、失感情傾向と慢性疼痛症状との関連性、疼痛対処との関連性を分析した。PDASは研究代表者および分担者が開発した質問紙であり、疼痛による生活障害を査定する。PDASは3因子構造で非常に良好な妥当性と信頼性を持っており、その成果は国際的な疼痛専門雑誌であるClinical Journal of Painに掲載された。J-CPCIは慢性疼痛への対処法を評価する質問紙で、慢性疼痛の認知行動療法で治療標的となる疼痛対処法を評価する8つの下位尺度から構成される。J-CPCIの信頼性と妥当性は十分であり、その結果は第51回日本心身医学会で発表した。 さらに、失感情傾向と慢性疼痛症状との相関分析については、仮説通り失感情傾向と痛みの感情要素(苦痛)や生活障害は正に相関していた。さらに失感情傾向の構成要素である感情同定困難と感情伝達困難は、それぞれ痛みの感覚要素と逆方向に相関していた。すなわち感情同定困難は痛みの感覚要素と正の相関が、感情伝達困難は反対に負の相関が認められた。これは、痛みの感覚要素を増強すると同時に減少させるという矛盾した作用が失感情症にあることを示唆する。 さらに失感情傾向と慢性疼痛対処法との関連性も分析した。予想と異なり、失感情傾向は疼痛対処法と相関しなかった。そこで失感情傾向は疼痛対処法と独立して疼痛強度や生活障害、抑うつと相関するという仮説を新たに検証した。失感情傾向は、疼痛強度や痛みの破局化をコントロールしても、疼痛対処法と独立して抑うつや生活障害と相関した。これは、疼痛対処法教育を中心とした従来型の慢性疼痛の認知行動療法に失感情症の調整を追加することで、生活障害や抑うつのさらなる改善が見込めることを示唆する。
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