本研究の目的は「線維筋痛症(Fibromyalgia Syndrome;以下FM)患者への認知行動療法による心理教育実践プログラムの開発」研究の一貫として、初年度は、FM患者にみられる性格特性尺度作成、および諸心理的指標を用い、認知的変数との関連を検討した。これらの結果をもとに、段階的な介入プログラムを作り、患者が訴える痛みの増悪の悪循環を繰り返している過程での要因を手がかりとし、患者のニーズや学習能力に合わせ、段階的に関わるシステムを提案した。最終年度では、患者個別状態の変化に合わせてプログラムの有効性が検討された。その結果、患者個人の日常生活習慣や家族の関わり方などが痛みを増悪させる悪循環が起こることがより明確化になった。特に認知・行動変容段階の介入を行う前に、痛みの起こるきっかけになった患者個人の状況を治療者が介入過程で充分に受け入れる事が、よい日常生活習慣の維持につながり、痛みの治療に重要な意味があることが認められた。また、罹病期間の長いFM患者にとって家族とのトラブルは怒りの抑制および、痛みを増悪する直接的な要因として関与することが示唆され、痛みの長期化はストレス耐性を変化させ、更に状況の悪さを痛みで訴えることが明らかになった。そこで、介入による相違点を探り、痛みに影響する諸問題を検討した結果、家族が病態を理解できず、拒否的な様子が見られる場合より、3年以上の罹病期間や、何らかの出来事に巻き込まれている患者が介入経過中や治療後の経過に痛みの増悪に影響を与える可能性が高いことがみられた。これらの結果を踏まえ、今後、認知行動的介入を行う際に留意すべき点としては、患者の生活リズムに応じ、(1)患者やその家族のこれまでの痛みに対する意識のズレを見直すとともに、(2)患者・家族間の情報の伝達や共有を強化することが、痛みに加えて治療を妨げる二次的な症状への治療促進的な場をつくることにつながる。そのことで、痛みの緩和とともに二次的治療への参加が容易になると考えられる。
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