今年度は伝統的性役割観、性犯罪神話、正当世界信念などが性犯罪被害者への偏見に及ぼす影響を、レイプ事例と痴漢事例で検討した調査の結果の分析、被害者の社会的評価(respectability)が偏見にどのようい影響するかを検討した調査の結果の整理を実施した。なお、いずれの調査でも、被害事例や生活態度によって、説明変数の影響の仕方に違いがあるかを検討した。結果の分析に当たっては従来の欧米での知見を基にモデルを設定した。しかし、本研究では従来の研究のように、説明変数から直接被害者への非難につながるモデルを設定することに加えて、被害者の「事前の注意」や「被害時の抵抗」についての評定者の判断を介在させるモデルを設定した。これは、通常の非難では、被害者の注意や抵抗の指摘が行われていることを考慮に入れたためである。 現時点では被害の種類(レイプ事例と痴漢事例)の分析結果が得られている。それによると、被害が甚大になるほど被害者への態度が厳しくなる点は欧米研究の知見と同じであったが、いくつか異なる点が見出された。(1)まず、性差は確認されなかった。(2)伝統的性役割観については欧米の知見と逆の結果が得られた。すなわち、伝統的性役割観が弱く、自立した女性観をもつ評定者ほど被害者への非難が大きかった。しかもそうした女性観の評定者は事前に注意すべきであり、被害時には抵抗すべきと考え、その結果、被害者への非難が強くなっていることが示された。(2)正当世界信念は直接の関係はなかったが、事前注意を介して被害者への非難に関係していた。すなわち、正当世界信念が弱いと事前に注意すべきという考えが強くなり、その結果、被害者への非難が強くなった。ただし、男子評定者では正当世界信念からの直接的なパスが認められた。 被害者の社会的評価に関する調査結果は現在分析中である。 この従来の欧米の知見との違いが何によるのかなどを次年度は検討する。
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