今年度は、まず、昨年度の調査結果を被害者の「事前の注意」に対する第三者の評価を介在させるモデルを用いて分析した。その結果、痴漢事例では正当世界信念は第三者は事前の注意にも過失評価にも負の関係を示していた。これは、正当世界信念を受容する個人は仮説から期待される厳しい態度には結びつかず、逆に、被害者に好意的な態度をとることを意味している。この結果は、正当世界信念が客観的な態度を意味する可能性を示唆している点で、この信念についての従来の解釈の再考を促すものと思われる。一方、性犯罪に対する誤解(レイプ神話など)を持つ個人は被害者に責任や過失を帰属させること、そしてとくにレイプ事例では被害者の事前の行動を厳しく評価することがそこに介在することが示された。 次に、レイプ事例について、事前注意に対する評価と被害の甚大さに対する評価を介在させるモデルの妥当性を検討した。同時に、レイプ神話や性犯罪神話の内容が実は多様であることから、それらを複数の下位概念に分類し、個々の下位概念レベルで責任帰属との関係を検討した。その結果、性犯罪に対する態度は下位概念によって責任帰属、過失帰属との関係が異なることが示された。また、性役割に関する態度も、下位概念によって事前注意や被害甚大さの評価との関係が異なることが示された。 以上の結果は、従来あまり検討されてこなかったShaverやWeinerの責任帰属や非難に関するモデルを性犯罪被害者への非難の理解に応用可能であることを示すものとして今後さらに検討するに値するものであることを示している(二段階モデルと便宜的に呼ぶ)。一方、被害者非難をもたらす要因や条件についても、従来言われてきたような単純なものではなく、内容をさらに検討したうえで、異なる側面に分けて検討する必要があることが示された。これは、被害者への偏見のどの部分を改善すべきかといった教育内容にまでかかわる重要な点と思われる。今後さらに異なる条件下で検討する必要がある。
|