今年度は、感情と身体感覚の関連について、特に身体接触の観点から検討を行った。 その際、特に身体接触が重要視される場面や職種として看護場面を選択し、不安や緊張が高まると考えられる、患者の体位変換を行う際の触れ方について検討を行うこととした。 看護学生が患者役の大学生の体位変換を行うという不安を喚起させる場面において、どのような身体感覚をもつのか、について検討した。さらに体位変換を行う際の触れかたについて、手の平の3点(中指先(A)、薬指付け根(B)、手の平(C))の接触圧を測定した。このとき、実験前後で動作法を行う実験群と行わない統制群とで比較を行った。 実験の結果実験群では、動作法を行う前のプリテストでは、いずれの学生もAで大きな接触圧の加圧が認められ、BとCではほとんど加圧がみられなかったのに対して、動作法後のポストテストでは、逆にAとBではほとんど加圧がみられず、Cに大きな負荷が認められた。一方、動作法を行わない統制群では、BとCでの加圧が相対的に高かった。この実験の問題意識は、身体の延長線上に開発されたさまざまな機器や道具を中心とした医療現場の中で、看護の本質的な意味がないがしろにされてきており、気付かないうちに「さわる」とか、「腕をつかむ」ということになっているかもしれないことへの危機感がある。このような状況の中でも、動作法をすることによって、自分の身体感覚という確固たる拠り所を保つことができれば、患者に「ふれる」という看護の原点に立ち戻ることができる可能性が示唆された。
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