今年度は、感情と身体感覚の関連について、身体接触の仕方による感情の喚起の違いについて検討した。被験者は大学生12名(男性6名、女性6名)であり、ペアを組ませた者同士はすべて友人関係にあった。 心理指標として気分調査表(坂野ら、1994)を用いた。被験者には同性同士それぞれペアで1組ずつ実験に参加させ、2者ともに着座の状態で一方に相手の手の平を以下の3種類の触れ方で接触させた。 触れ方は「撫でる」、「擦る」、「タッピングする」であり、各々の触れ方で1分ずつ触れてもらった。「撫でる」とは手の平を相手の手に密着させてやや圧をかけながら1秒に1往復させ、「擦る」とは指の内側部分全体を相手の手に軽く接触しながら同じ速度で往復させ、「タッピング」は同じ速度で相手の手を軽くリズミカルに叩いた。それぞれの3種類の触れ方による、接触圧の違いについて確認した。さらに3種類の接触前後に気分調査表への記入を求めた。 実験の結果、得られたデータをexcelを用いて高速フーリエ変換し、各周波数ごとにパワースペクトルを算出した。その結果、「撫でる」触れ方で触れられた者の皮膚は、1/fゆらぎの特性をもつことがわかった。それに対して、「擦る」と「タッピング」による皮膚の振動には、この特性はみられなかった。さらに、気分調査表の3因子について因子別に平均得点を算出し、実験後から実験前の変化量について、「触れ方」と「触れる一触れられる」を要因とする2要因の分散分析行った。1/fゆらぎの振動は、人間に快適感を与え癒しやリラクセーションの効果があることが知られている。本実験の結果から、「撫でる」ことにより皮膚にはこの快適感をもたらす1/fゆらぎが発生していることから、この振動を皮膚の受容器が受容し、それが脳に伝達された結果として快適感がもたらされる可能性が示された。
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