本研究は、英国の精神分析的アプローチに基づき、広汎性発達障害児に対する精神分析的心理療法の有効性について科学的な見地から検証することを目的としている。本研究は、精神分析家Bionによって論じられている情緒から認知への発達促進という視点に立脚しており、コミュニケーションや社会性の問題を呈する広汎性発達障害児の心理的援助や治療教育的援助に対して、今後大きな示唆を与えるものと思われる。 研究1年目の今年度は、6名の広汎性発達障害児に対し、継続的なプレイセラピーを実施した。プレイセラピーは、精神分析的心理療法に則ったものであり、部屋の管理やその児童専用の玩具の管理を徹底した。また、詳細な記録を作成し、月に1度、研究代表者および、心理療法担当者全員が参加する形で、各ケースについての評価・検討が行われた。また、保護者への面接を通し、対象児童の家庭や学校での適応を評価した。必要に応じ知能検査も施行し、認知発達面への影響を捉えるための資料とした。また、関連文献として『自閉症の精神病展開-精神分析アプローチ』(明石書店)を翻訳し、今春刊行予定である。研究期間は1年未満であり、明確な結果は、さらなるデータ収集や評価を慎重に行っていく中で示していきたい。だが、以下の適応的な行動の増加が保護者面接で認められている。すなわち、兄弟姉妹や友人への暴力や物壊しなどの他害行動の軽減、集団場面参加回数の増加、会話における「ぼく・わたし」の一人称の出現、会話の成立(言語理解・言語表現)などである。 今後、ケース数を増やし、さらに詳細なデータを収集し、面接記録の中にみられる会話や描画などに対して質的に評価していく。社会適応面に対する精神分析的心理療法の治療効果について判定していきたい。
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