研究概要 |
本年度の研究目的は、①過酷な体験の語りを聴くことが支援者にどのような心理的影響を与えるか、②支援者や研究者に対する心理的負担の軽減について検討することであった。 研究実績としては、加齢に伴い罹患率が高まり、社会的な対策が急務の課題になっている「認知症」を過酷な体験として位置づけ、本年度の主な研究テーマとした。認知症をかかえる高齢者、その家族、支援者である施設職員や心理専門職の心理について、他の研究者の協力を得て、『老いのこころと寄り添うこころ』(編著:山口智子)をまとめ、認知症については、第2部「病い」第6章~第10章で取り上げた。 認知症は、世間の人が持つ「なおらない」「自分が自分らしく生きられない」というイメージが人々に恐怖を感じさせること、対象喪失の体験であることから、まぎれもなく「過酷な体験」であり、当事者や家族だけで対応できる困難ではなく、認知症になっても「自分らしく生きられる社会作り」が必要とされる。また、認知症の人の主観的体験(自分自身であり続けることへの危機感、日常生活で感じる困難さ、感覚の変化)を当事者が語ることが「認知症の人は何もわからない」という誤解を払拭していく可能性が指摘されている。これは過酷な体験の語りを聴くことが支援者や研究者にうつや無力感などネガティヴな心理的影響を与えるだけではなく、社会的な力となることを示すものである。支援者や研究者には当事者の語りを聴き、支え、語りを代弁していく役割があると言える。支援者や研究者の心理的負担の軽減では、心理専門職における人生の物語の聴き手である姿勢の重要性や介護職・支援者のメンタルヘルス問題として検討した。 また、新たな回想法の展開について検討し(山口,2013)、被災者の心のケアと支援者の心理について、講演会「東日本大震災とこころのケア」を開催した。
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